料理経験0の会社員だった僕が「煮込みスト」になるまで(後編)
前編はこちら
2016年末に野菜や人との出会いをきっかけに料理を始め、本格的にハマっていった私。
友人を招いて振る舞うことを重ねる中で、2019年に転機となる料理道具と出会い「煮込みスト」が誕生する。
目次
4. (2019年1月)遂に出会えた、添い遂げたい道具
料理をはじめて2年経ったころの2019年初頭。
休日になんとなく入った書店で見つけた料理本が、恥ずかしながら、かつ遅すぎたストウブとの出会いだった。
いわゆるほかブランドのホーロー鍋などとの違いがわかっていなかった僕は「派手な鉄鍋もあるもんだ」くらいの認識で本をなんとなく手にとった。
それこそダッチオーブン(炭火にかけられる鋳鉄製の鍋のこと。ちなみにストウブはガス火はOKだが炭火はNG 表面の加工が痛む可能性大)とそれほど区別がつかないくらいの認識だった。
単なる道具、ではなかった出会い
調理道具でそんなに料理が変わることなんてないし、鍋なんてどれだって変わらない。
一生使う、なんて言ったところで、どこまでたっても道具は消耗品なのだから。
斜(はす)に構えて読み進めた自分が、その歴史や、機能や、込められた思い、そしてその美しいデザインやカラーバリエーション、機能ごとの形状の違いに魅せられていくまでに時間はかからなかった。
1974年、フランスの誇る三ツ星シェフのポール・ボキューズらとの共同開発で生まれた。当初プロ向けに開発され、多くのレストランで利用されてきた。現在では、ヨーロッパをはじめ、日本、韓国、アメリカなど世界50カ国に輸出され、一般の家庭でも広く愛用されている
「これなら食材の旨味や水分も逃さずに焼きも、蒸しも、炒めも、何でもできるじゃん」
「毎日出汁を引いては味噌汁作ってるし、野菜炒めてるけど、こんなうってつけの道具があったんじゃないか」
「なぜ今まで出会わなかったんだろう、、いや、今だからこそ出会えたんだ。間違いなく、そうなんだ」
「この道具を家に迎えよう」と思うまで、さほど時間はかからなかった。
写真家でもある自分は、手に馴染む、寄り添う道具の大切さをわかっていたはずだった。
なのに、なぜか、料理においては「こいつと添い遂げたい道具」に出会えていなかった。そのことに違和感を抱くこともなく、日々の料理を続けていたように思う。
こと、写真においては主要メーカーのカメラはほぼ経験した。10台近く使い込み、今4年近くパートナーを組んでいるのがこのFUJIFILM X-PRO2である。
写真撮影においては当たり前だった「欠かすことのできない道具」
料理において「代えがきかない道具」に出会えたことが、大きく僕の料理ライフを変革することになる。
5.「煮込みスト」の誕生と、始動(2019年1月〜12月)
注文からほどなくして、僕の家に人生初のストウブが届いた。
ピコ・ココット・ラウンド 20cm。数あるストウブのモデルや種類の中でも、最も「標準」と言われるモデル。カメラでいれば、「標準レンズ(人間の視界の画角にほど近い50mmがそれと言われることが多い)」に当たる万能選手
開梱したストウブには、製品の生まれ故郷であり、生産地であるフランスのナショナルカラーであるトリコロールを模したリボンにstaubの文字が記してある。そして鍋には品質チェック担当者の名前が記されたステッカーが貼ってある。アンディさん、ありがとう。あったことないけれど。
待ちに待った道具。すぐにシーズニングを済ませ出汁を引き、味噌汁を作り、野菜を炒め、、活躍する日々が始まった。
ひとまず味噌汁の制作容器として使い始めた
毎日共にキッチンに立ち、新しい味を一緒に作り続け、出迎えて1週間位経った頃だった。
艷やかに深く光るマジョリカカラーは目に馴染んできていたけれど、その手触りと、身体感覚すら覚える重みと、艶やかさも相まって、ますます僕は惚れ込んでいた。
「煮込みスト」の誕生
ふとした時に、それほど深く気にしていなかったストウブの機能を改めて確認していくと、一番得意な調理方法は「煮込み料理」であることに様々な観点から気づくことができた。もちろん使いながらその機能は直接伝わってきていたけれど、改めてスペック面からじっくりと読み込むと、歴史や機能など、なおさら愛情が深まる観点に満ちていた。
フタの裏面の「ピコ」や「システラ」などの突起がもたらす、食材への効果
食材から出た水分を蒸気に換え、鍋の内部で対流させます。更にピコやシステラなど、フタに付いた突起に付着した蒸気が水滴となり、食材にまんべんなく降り注ぎます。この仕組みをアロマ・レインと言います。 -ストウブ公式サイトより
他の鍋のフタと比べた際の、非常に高い保水力
STAUB鋳物ホーロー鍋のフタは、他社のフタと比較して10%も高い保水力があると2009年11月 Cetim Cermat 独立研究所による55分間の調理実験にて実証されています。 -ストウブ公式サイトより
食材の水分をしっかり鍋の中に閉じ込め、高い保水力と突起でアロマ・レインをもたらし、食材のポテンシャルを最大に引き出してくれる。
そしてその機能をフルに活かし、具材の水分、具材の組み合わせ、調味料や油、出汁、スープのパターン、それを最大限に楽しめるのが「煮込み料理」だと、改めて確認した。
料理を始めてから何度も友人を招いたり、友人宅に出張したりして作っていて、一番喜ばれた料理だった「煮込み料理」。
それでも、ノンジャンルで料理を作ることが楽しみでやっていたし、「得意料理は何ですか?」と聞かれても口をつぐむか、「ずばり、これです」と言えるほどのものはなかったそれまでだった。(出汁をしっかり引いた炊き込みご飯などのスペシャリテはあったけれど)
そんな僕の前に現れたストウブは、
「迷わずに、目の前にある食材と、調味料と、インスピレーションと、時間を最大限に活かして、楽しみながら、煮込むという喜び」
を機能面、愛着、使い心地、全てをもって教えてくれた。
なんとなくずっと作り続けていた料理が、ひとつの方向性を得た。
「今日から、自分の得意料理は『煮込み料理』だと胸を張って言おう」
「煮込み料理を得意とする人・・・だから、その名も煮込みスト、ってどうだろう?」
何かにつけキャッチコピーづくりや、ネーミングを依頼される僕だが、このときばかりは「自分がこれから表現していきたい世界観」を表す言葉を瞬間的に引き当てていたように思う。
今でも忘れない、中目黒蔦屋書店のスターバックスで言葉を思い浮かんだときに、ノートに一気に走り書きしたイラストとロゴ。
一応ココットラウンド20cmのつもりだったのだが、、、絵心はまあこんなもんである。。
煮込んで、煮込んで、また煮込んで
ストウブに出会うちょっと前は、自身の完璧主義、高い理想(ことに他の仕事や)キッチンに迷うときに、なにか上手に作らないといけないとか、プロではないからせめて工程を丁寧に、、、みたいな思い込み、縛りに少し苦しみ始めていた。
楽しめればいいし、没頭できればいいし、成功も失敗もない。
それが自分にとっての料理だったはずだ。
ストウブはそうした迷いも、不安も、見栄も、全てどうでも良くなる時間をくれた。
迷わずに、作りたいと思った色を、味を、煮込み続ける日々が始まった。
ど真ん中マンベール煮込み。アロマレインによるチーズへのまんべんのない加熱が、食べるときに箸で溶かす楽しみを演出してくれる
根菜の味噌バター煮込み。ココットラウンド購入から数週間後、ブレイザーソテーパン24cmを追加購入した。ココットと比べて半径が広く、深さが半分ぐらい。蓋の裏の突起もココットとは若干異なる「システラ」という構造。このあたりの解説はまた別記事で行いたい。
2020.2.3 追記
ブレイザーソテーパンのレシピも追加した
上記2台に加え、炊飯用の「ココット・ゴハン」も導入した
6.(2019年4月〜)表現する場所の拡大
「煮込みスト」としてキャッチを絞ったことで、人に話す際に何が得意で、提供できるかを明言できるようになったことで、料理をする機会が広がった。
2月、愛知県での出張料理提供が実現。「煮込みスト」という「提供する価値と期待感のわかりやすいフレーズ」が依頼を引き寄せた機会。
勝手の利かない、慣れないキッチンもそれはそれで楽しいものだ。場所はスノーピークさんの関連会社だったこともあり、スノーピークがオリジナルでコラボレーション開発したstaubを使う機会にも恵まれた。
3月には、ベンチャー企業のオフィスにおける調理と提供。ストウブを使用しなくとも味のぶれないレシピは、毎日飽き足らず反復して作り続けた成果だったと言える。
ある程度の量をあえて浅めの大皿に、という盛り付けもダイナミックでいいなと気づいた機会だった
4月には、ファーマーズマーケットの方の声掛けで、敷地内のキッチンカーをレンタルしフード出店する、という貴重な体験をさせていただけた。
手作り感ある装飾はもちろん自前。店用のロゴプレートは過去に1度お願いした格安の業者で作ってもらった
10リットル✕2種類。合計20リットル。はじめての大量仕込み。やる前は不安だったが、制作に没頭し始めればあっという間だった。
オリジナルレシピの「青山ポトフ」「冷製チキントマト煮込み」と鎌倉のリュミエール・ドゥ・ベーのバゲットセットで提供
4月初頭で終始温かい陽気だったのだが、夕方近くになり冷え込みが強くなる。冷製のトマト煮込みも温かいものを提供するプランに途中変更。加熱はIHコンロで行っていたが間に合わなくなり、念の為持ち込んでいたキャンプ道具のガスバーナーが役に立った。料理は完売とは行かなかったが9割方売れるという非常にいい経験・営業となった
夏には、なるべくキッチンを広く取れる、かつスーパーマーケットが近隣にある物件を必死で探し、それまでキッチンスペースが共用設備だったシェア物件をでて、移転した。料理をする喜びを得てからはじめて得る自分のキッチン。
それまでの一人暮らし物件では当たり前のように一口コンロで、ホコリを被っていたキッチンだったが、IHのコンロを自身で設置し、使いやすいキッチンを作り込んだ
そうしてその8月には、自身の料理の原点であるファーマーズマーケットのコミュニティイベントでも調理担当をさせて貰える機会を得た。
MOMOMOMO煮込み。このイベントのために新たに開発した煮込みレシピだ。
40人もの参加者があっという間に2種40人前の煮込み料理を平らげてくれた。
「優しい味がする」
「これはもうセンスだ。真似できない。お前だからできる味だ」美味しい土も、野菜も知り尽くしている生産者さんの言葉が何より嬉しかった。
都度都度差し入れられるとうもろこしやなすなどをその場で調理して、食べながら、軽く飲みながら仕込みをする。最高の空間だった。このときのキッチンは今工事中で、同じような形での調理がしばらく難しいのだが、あれは本当に月1くらいでやりたい。あんな贅沢な機会と空間は他にないと思う。
たくさんの機会が、場が、笑顔が、そして何より「美味しかった」が、「煮込みスト」という言葉によってできた機会によって生まれた。
その「煮込みスト」を生み出してくれたのはファーマーズマーケットであり、生産者さんであり、何よりストウブにほかならない。
僕の料理人生だけではなく、生きる意味そのものを、ストウブという道具が新しく更新してくれたのだ。
今まで悔しかったこと、うまく行かなかったこと
やっててよかったこと、自身の糧になっていること
一見無駄に思えたこと、流した汗や涙
失ったり、霧散しているように見えたそれらは、全てが自身の唯一の味をもって自らに降り注いで、教えてくれた。
ストウブと向かい合うことで、楽しんで料理をすることで、料理を通して人と関わり、ふれあい、つながることで、
「生きることそのものが、煮込み料理のように無駄なく、時間とともに深みを増していき、全てをおいしくひとつにしてくれる」
事に気づけた、なんていうのは大げさだろうか。
「煮込みスト」料理だけにとじない、僕の生き方の方向が芽吹いた2019年だった。
7.煮込みスト、そしてこれから
僕という人間は結構飽きっぽく、マイナス思考で、すぐに諦めてしまうところがある。自分はもうこんな年齢だから、今までうまく行かなかったから、そうして言い訳をしていろんなことを諦めてきた。
そんな僕でも料理だけは飽きることも、やめることなくこうして続けることができていて、おなじく写真を撮るという行為もほそぼそではあるが、続けることができている。
この写真は僕の大好きで、大切な場所である三軒茶屋コマルで撮影したもの。
人を撮る。
料理を作る。
誰にでもできること、特殊な能力ではないし、ありふれたものである。
そうずっと思っていたけれど、人から言わせるとそうでもないらしい。
ありふれている、凡庸だ、商売にならない。そうした言葉で言い訳をして、ずっと自身の本音を抑え込んできたような気もする。
写真だって、料理だって、「始めた頃」のその時は「過去、成功したことがないこと」だったはず。そんな2つが、自身の人生の大事な背骨になっているのだから、自ら可能性をせばめる必要なんてないはずだ。
だからこそ、「煮込みストはこう生きる」を言葉にしておきたいと思った。
どうなりたいか?どうなるか?それほど難しく考えることではないし、もう本音をごまかして、自分を騙して、満たされないことを人のせいにして生きるのも終わりである。
料理、写真、言葉、様々な経験、すべて無駄ではないし、未来を作るのは「過去」の集積ではなく、「今、この瞬間」からの自分に違いない。
8.最後に
これを書き始めたときは
・こんな文章書いても読む人いないよな
・ブログにわざわざ書く内容だろうか・・・
と迷いながら書いていた。
だが書いてみて
・自身のストウブへの思いを確認できた
・どう生きたいか、どういう人生を選択したいかが改めてわかった
・沢山の人や食材や道具に支えられていることを再確認できた
ので、意味はあったと思っている。
数年後、「あのとき、あんな事を考えていたな」
「あのとき目指した姿よりさらに感動し、ワクワクできる生き方をしているな」
と思えるようにこの瞬間から生きる。そう決めた。
過去の失敗も、挫折も、乗り越えよう。未来を作る1年。
そして今日もまた家に帰って、ストウブと一緒に何かをつくろう。
あたたかくて、美味しくて、優しいもの。
人生と同じ形、同じ体温の料理をつくろう。
[この項終わり]
21.3.14追記
【食べてもらう以外にも、”誰かのための料理”はできるという実感】
「結婚してからしっかりしなきゃと料理が重荷になっていたけど、この記事を読んで救われました。優しく包まれたような気持ちです。楽しむ気持ちでやってみます。ありがとうございます!」
この記事を読んでいただいた方からそんな言葉をいただいた。
お会いしたことも、お話したこともない。だからこそとても嬉しい。
今これを書いている東京の朝は雨で、書きたい文章があるのに筆が走らなくて、朝からコーヒーを飲んだりお風呂に浸かったりぼんやりしていた中、ふわりと心が温かくなる言葉。
きっとこの方がこの気持ちでつくるゴハンは、温かくて優しいんだろうな。
技術や味付けより、そうやってこもるなにかが必ずあって、それが大切なんだと思う。
引き続き気を抜かず、でも楽しみながらコツコツ発信していこう、と思えた出来事でした。
ずっと自分のことばかり、利己のことばかり考えて生きてきた、ある意味嫌なやつだった自分だけど、もうそうじゃない未来の延長線で生きて、目指すべき場所に向かっているんだな、と少し誇らしくなるそんな出来事がうれしくて、ここに書き記しておきました。
この記事を読んでストウブが気になった方へ
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